和製コンスタンティン羽琉風  by トラウトサーモン

 ジェリーの乗った飛行機は離陸した。
 キャビンアテンダントの救命器具の説明も聞かずに、携帯に繋いだイヤホンを耳に押し込む。携帯の電源が入っていることに気づいたキャビンアテンダントが、ジェリーに近づこうとしたが、ジェリーは気配を察して遠くの客に哺乳瓶を落とさせた。床を転がるそれを、キャビンアテンダントは急いで拾いに行った。
 眼下に遠ざかる滑走路を見ながら、ジェリーは小さく舌打ちした。
 やっと500年かけてアメリカの生活に慣れてきたのに。また日本に左遷されるなんて。
 懐かしく、うっとおしい国、日本。
 伝説に聞く、地球を崩壊から守る七つの柱の一つがあると言われている国。その霊の潜在能力は、国民がアホになったといわれる現在でも変わらない。
 ジェリーは、半分が人間、半分が悪魔のハーフブリードである。人間界には、守護霊では手に負えない範囲の働きかけを人間に行うときのために人間の身体を使う天使と、それに対抗したい悪魔の使いとが潜んで暮らしている。
 悪霊界に不審な噂が流れていた。近い未来、地球の汚染を浄化するために、神界がキリストの再臨に匹敵する大きなカードを用意していると。だから、悪霊界は焦っていた。ノルマが高く設定され、いかに効率良く多くの人間のエゴを醜く肥大させるかに、ハーフブリード達はしのぎを削っていた。
 しかし、そこでジェリーはミスを犯した。
 「バカヤロー!! あのジェット機は、ホワイトハウスに突っ込む予定だったんだ!」
 ジェリーは悪魔界の“上司”に怒鳴りつけられた。ジェリーはひざまづいたまま、何も言えずに嫌な汗をかき続けていた。
 「欧米と中東の仲間全員で積み上げてきたプロジェクトを、最後の最後で台無しにしたのはジェリー、お前だバカヤロー!!」
 あの9.11テロ。ジェリーが空港でテロリスト達のモチベーションを最高値にキープしそこなったため、天使達が隙をつき、テロリスト達の良心を刺激するようなビジョンを頭に送り続けた。テロリスト達の最後の良心は心の隙となり、2機はあのビルに追突し、3機目は山岳地帯への墜落という結果を招いた。犠牲者は出したが、悪霊達にとってはゲームの敗北であった。
 悪魔の由来というのは、もともと神に成り代わろうとした存在達がサタンの元に集結して始まったと言われている。だから、神に負けたくない、争って勝ちたいという願望があり、非常に狡猾だが完璧主義だ。ジェリーのミスが突き止められるやいなや、非情な追求と裁きがあった。それは長引き、やっとこの2007年の年明けに判決が降りたのだった。兄のリックが国際問題が得意分野で、過去の湾岸戦争で優秀な働きをしたことと、悪霊界裁判の審査員と裏取引し買収したことで、ここまで刑が軽くなったのであった。
 刑は、島流しならぬ、日本流し。
 これより重い刑もある。悪魔ハーフブリードの誰もやりたがらない残酷な任務を押しつけられ、成功しても名誉も感謝も与えられず、体が弱ったところを更に仲間のハーフブリードに攻撃されることもある、と噂で言われている。それでなかったことは、ジェリーの雀の涙のようなわずかな救いだった。
 ジェリーは顔かたちを白人系、黒人系、アジア系の何にでもそれなりに変えられた。トイレに入って出てくると、顔の特徴は残したままで、日本人の容貌になっていた。髪だけは、空港の美容院で染めなければならなかった。悪霊仲間でさえ本当の髪色は知らなかった。
 そのまま日本のハーフブリードのボスに挨拶に行かなくてはならない。兄に教わったとおりに名刺を用意して、タクシーに乗り込む。夜の銀座の、とある有名クラブにジェリーは入った。
 ボスは自称、日本を代表する大女優であった。マネージャーを始め、取り巻きを沢山連れた彼女に、ジェリーは日本の作法通りにコートを脱いで、名刺を出して、頭を丁寧に下げて自己紹介をした。ジェリーは自分のすることが招く結果が分からなかった。大女優は、ジェリーが有名人に会えたことに感激し、お世辞を言うことを待っていた。日本の芸能界を知らなかったことで、ジェリーの運命は決まった。
 大女優は激怒してテーブルをひっくり返した。ドンペリーニョとシャンパングラスが幾つも破片になって飛び散った。その場にいた者全員から、ジェリーは追い出された。
 ジェリーは500年ぶりの日本の街を、夜明けまでとぼとぼと歩いた。本来、ジェリークラスのハーフブリードなら、六本木ヒルズなどの高級住宅に住んで、表舞台で注目を受ける人間に接近したり、操ったりする任務をするはずだった。しかし、ボスである大女優の自尊心を傷つけたため、その身分保証は崩壊した。
 気が付くと、ジェリーは昼近くの秋葉原に来ていた。噂には聞いていたが、世界を代表するアニメ・カルチャー、メイドに代表されるファンタジー産業の最高峰と言われる場所も、ジェリーの好奇心をなんら刺激する場所ではなかった。
 ハーフブリードは、自動的に人間達の魂の成熟度を読みとることができる。得意分野が違うだけで、目標意識の高い者や精神年齢の低い者の割合は、他の業界とさほど変わらなかった。潜在能力が未知数、ということだけはここも例外ではなかった。
 しかし、秋葉原の人間の意識は、狭い範囲で濃縮されているため観察していてもつまらなかった。大昔の日本人は、もっと他人に関心を持ったものだった。ちょっかいも出しやすかった。手柄を一つあげれば、ボスにまた取り入るチャンスにもなった。
 ベビーカーを押した若い母親が、同人誌を立ち読みしているのを、ジェリーはカフェから眺めた。その年若い母親の心は、結婚前の趣味をしていた頃を懐かしく思い出していた。(親が言うからなんとなく結婚して・・・子どももいるけど・・・)その先が言語化されない。昔の人間には内面の試行錯誤が豊かにあった。ジェリー達はそこに誘惑の言葉を差し込めばいいだけだった。しかし、今の迷える若者達には内面の対立が無く、漠然とした欲求不満が溜まり続ける。あえて何かするなら、子どもをその場に置いて、コミックマーケットに立ち去り昔の仲間と行動を共にする、という衝動的な支離滅裂をさせるしかない。
 やりづらい。人間のエゴを際限なく溜めさせて、バラバラ殺人などへし向けられるハーフブリードもいるが、ジェリーは新しい手法にあまり慣れていなかった。
 何より、日本のボスに認められれば、しばらくは豪勢な生活をしながら現地研修の期間があったはずなのに。
 ジェリーは横目でチラチラと親子を睨みつけながら、ベビーカーを少しずつ、ゴロ、ゴロ、と動かし始めた。若い母親は気づかない。眠っている子どもも、目覚めない。ベビーカーが向かう先には、店内を暖めている巨大なヒーターがあった。
 ジェリーの目の前が不意に暗くなった。峰打ちだ。
 ヒーターの前には、アニメキャラの風船を持った小さな男の子が走り寄った。「わあい、暖ったかーい、暖ったかーい! 飛ばされるぅー!」わざと温風を直に受ける場所に来て、声を出してはしゃぎだした。その声でベビーカーの子どもは無事目を覚まし、視界に母を求めて文句の泣き声を出し始めた。
 ジェリーは、ゆっくりと、目覚めた。
 天使だ・・・。天使のハーフブリードにやられた! 悪魔ハーフブリードを捕獲するための術、通称“ストップモーション”が掛けられている。
 一区間の時間の流れが止められているので、身体が動かせない。しかし心臓が止まっているわけではないので、どんなに途方もない体感時間で掛けられても死なない。そして、完全な人間ではないので、恐怖だけが高まっても、気を失うことも、精神が壊れることも無い。意識だけが時間のペースを越えて機能している。
 (チキショウ!!)ジェリーは意識の中だけで毒づくしか無かった。手足は既に拘束され、部屋は必要以上に冷えていた。どうやら、安全に移動できるよう、凍らされている最中のようだ。
 眼球をやっと動かして、薄暗い部屋の中を見渡す。小さな古い和室。軋んだ窓枠。畳と線香の匂い。過去に掛け軸があったらしく、長方形の跡を残して色落ちしている壁。
 四方を見渡すと、その一角に古びたポスターがあった。赤くて長い髪に化粧をした、ビジュアル系ミュージシャンらしい。有名人の中にもハーフブリードや、天使の生まれ変わりがいるということは、ハーフブリード族の中では一般常識だ。つい仕事の癖で霊視すると、彼の過去から大量のファンの歓声と、天使ハーフブリード仲間の「君の志を忘れない」などという涙混じりの声が聞こえてきたので、ジェリーはすぐ意識のスイッチを切った。彼も日本で天使に準じる働きをしたメンバーの一人なのかもしれない、とジェリーは忌々しく思いながら、ポスターから目を逸らした。
 ドアの奥から10人くらいの話し声が聞こえてきた。
 「どうする・・・・悪魔・・・」「・・・・引き渡しの要求・・・・・べきじゃない?」「全く・・・・といい悪魔達といい・・・」「これだけ今までの秩序が・・・・」「だから歴史の・・・・」「大いなる・・・信じるべきで・・・・」「・・・・何故、規則・・・・・」「いやこれは常識の・・・・・」「これも神の御・・・・・」
 ジェリーの扱いを会議で話し合っているらしい。
 やがて、一つの名前が聞こえてきた。
 「ウルフ、どうする?」
 ジェリーの聞こえが遠くなってきた。耳も聞こえなくなるほど、凍結が進んだらしい。
 ジェリーの目は塞がれ、4人くらいで担がれ、車に乗せられたらしい。どれだけの時間運ばれたか分からなかった。霊視もできないように、強力なガードが張られている。
 ジェリーの身体は、どさっと乱暴に降ろされた。目に巻かれていた布が外された。そこは、上品で小綺麗な洋室の中央で、ジェリーは黒革張りのリクライニングチェアに固定されていた。
 部屋の温度によって、ジェリーの身体は徐々に溶けていく。視界を取り戻したその先には、ブリードではない人間の男が居た。
 「ジェリーという名前だったんだ・・・・」
 そして男は言葉を続けた。
 「ジェリー、僕は知ってる。君は凍っていても僕の話を聞いているね」
 ジェリーは答える気がなかったので黙っていた。男は続けた。
 「ジェリー、僕は君を物のように扱う気は無い。でも、君がハーフブリードとしてここに居る限りは、僕にはすべきことがある。僕は、宇宙の神の意志において、ハーフブリードの君を抹殺しなければならない」
 「じゃあどうぞ」ジェリーは、男の冷静な理屈に思わず言葉を口走っていた。
 「僕は羽琉風。漢字名があるが、ウルフと覚えても構わない」
 ウルフはいきなりチェアの背もたれをガン!と倒し、水平にした。
 「なんで名乗るのよ! なんでもったいぶるのよ! 人間でこんな仕事が出来るのはコンスタンティンしかいない! お行儀良く前説ふらないで、さっさとお仕事すればいいじゃない!」
 ウルフは相手にせずに、試験管のような容器から液体を垂らし始めた。香りで分かった。赤ワインだ! 神の血と呼ばれている、呪わしい液体だ。
 「何? これに何が入っているの? 違う匂いも混じってる!」
 赤ワインには違う物も混ぜられていた。ウルフは呪文のようなことを唱え始めた。4カ国語を操るジェリーも知らない言葉だ。赤ワインはジェリーのヴィトンにまんべんなくかけられた。
 3、2、1、Go!のかけ声で、ジェリーの服が一瞬にして発火した。まばゆい閃光がジェリーの視界を塞いだ。次の瞬間、ジェリーの身体から解凍されたばかりのヴィトンがベリベリベリ!と、玉葱の薄皮を剥がすようにはぎ取られた。
 「いやっ!」
 黒革張りのチェアに固定された手足が、驚きと恐怖でびくびくっ!と跳ね上がった。黒革に縁取られた中央に、グラマーで艶やかな、優等生のジェリーの裸体が出現した。
 「やった・・・・。」ウルフはこうつぶやくと、口では微笑みを浮かべながら、笑っていない目でジェリーを見下ろした。
 ジェリーの両腕は肘掛けにベルトで固定されている。その左右のベルトの側に、ウルフはもう一本ずつベルトを回した。そのベルトは、腕と比べると異様に長かった。ジェリーは察した。
 「いや! いや! いや! こんな人間なんて! こんな人間を幸せにするなんて、どこに正義が・・・・・」
 ウルフはジェリーの膝にタオルを巻き、その上からベルトを巻いた。両腕に固定された両膝。固定を終えて立ち上がったウルフの眼下には、囚われの身となった悪魔ハーフブリードの躰があられもなく大きく開かれていた。
 「・・・・・どこに正義があるのよ! こんな奴らの守る正義なんて、誰が完成させられるのよ! 意味無いじゃん! 神にもこの世にも所詮意味なんて無いじゃん!」
 ウルフは言った。「消そうか」
 部屋の明かりが消され、壁のオブジェから蝋燭のように揺らいで光る、間接照明だけになった。
 「君たち悪魔のやっていることは、いずれ破綻する」
 ウルフは話しながら、部屋の隅のストーブを調節しに行ってきた。静寂の中からストーブの温度が上がる音が、シュンシュンと小さく聞こえてくる。ジェリーの姿に興奮することも無く、冷静に振る舞うことで、ジェリーの心に孤独と不安が膨らむ。
 「私達は、使命を全うしているだけよ」
 仰向けのジェリーは、白いタイル柄の天井と、ウルフの顔を交互に見ながら言い返す。
 「宇宙の歴史の中で人類滅亡が、今まで何回あったか知っているのか。人間が成長するための意志を伝えるのは神しかいない。邪魔をしているのは君達だ。悪魔界の存在する理由以上のことはもう許さない。人間への干渉を許さない」
 「それはずるい言い方ね。人類を滅亡させた原因は、神の寛容さか悪魔の欲深さかを議論しても、鶏卵の論になって結論はでないわ。だいたい人類を何回蘇らせても、自分達から創造主の意志に気づけるだけの主体性は出てこなかったじゃない。そうよ、いつまで経ってもママが手を引いて、これは駄目よ、こっちの場所だけで遊びましょうねって世話を焼かないと、すぐエゴ丸出しになって何にも出来ない生き物なのよ。何千年経ってもそうなのよ。前のマヤ文明の高さ、知ってるでしょ。あれでも滅びるほど人間はバカなのよ!」
 「人間はそもそも魂が途中まで進化するための生き物なんだ。それは永遠にそうだ。しかし、学ぶ意志があるにもかかわらず多くが弱すぎた。文明が進化するだけ、悪魔の誘惑に負ける者が増加した。・・・・・君たち悪魔の目的は何だ。人間に求める結果が何なのか分かってて今、そうして暴走しているのか」
 「人間に求める物なんて、無いわ。欲しいのは神への勝利」
 「人類の魂、発祥の地でよくそんな古い我が侭なんて言えるもんだな」
 「魂発祥の地? どこの天使に言われたか知らないけど、そんな伝説を信じてるの?」
 ジェリーは肌の涼しさを忘れるために無駄を承知で強がりを口にしていた。
 「結果は分からない。未来も分からない」
 言いながら、ウルフは腕を組んで、クロスした腕でジェリーの首をロックした。顔と顔が接近した。
 「必要なのは、信じることだ」
 ウルフはジェリーに言った。
 「覚えてるか? 『お前は年若く可愛い。今はまだ見逃してやろう』」
 ジェリーは眉間に皺を寄せて、ウルフから視線を反らせた。心当たりを探している。何百年と、生きてきた年数だけの記憶。人間の何倍分もの人生。すぐには思い出せない。
 「言われる気分はどうだよ?」
 言い合いから気が逸れたジェリーの耳を、ウルフはいきなり舐めあげた。ジェリーは仰天した。
 「ぎゃあ!」
 「ヘアカラーの匂い・・・・・やっぱりこれは染めた色だ」
 鼻をジェリーの髪にうずめながら、両手の指先は胸を触り始めていた。十指でふくらみのふもとから頂までを何回も往復する。やがて、人差し指と中指、親指はその頂の固い形を導き出すように、つまんで刺激を与え始める。
 あらわに開かれた下半身はまだ放置されている。しかし、ジェリーの意に反して、これから行われることに対し勝手に準備を始めるのを、彼女は止められなかった。ウルフの指は乳首の色を変え、形を露わにした。くわえたそうに、唇を近づけて、寸止めした。そしてジェリーの顔を見て、期待の色を探した。ウルフの口元に薄ら笑いが浮かんでいた。
 「脇、触ろうか」
 指は両脇腹に滑っていった。くすぐるように指を弾きながら手は前後に動き回る。
 「い!・・・・いや!それは、い、や!・・・・苦しい・・・・んん!・・・いや!」
 ジェリーは、身体が動かせるところ全てを動かして抵抗した。太股にも、腹にも力が入った。つま先も・・・・。やがて、ウルフは手を止めると再び立ち上がり、汗ばんで息切れをするジェリーを黙って眺めた。
 「この・・・・変態! コンスタンティンのくせに!」
 「そうだね。ボクはコンスタンティンだったね」
 ジェリーの後ろで、棚の扉が開くような音がした。戻ったウルフの手には、金色のマシンガンが抱えられていた。ジェリーは歯を食いしばり、目を強く閉じて覚悟をした。抹殺される・・・・。
 しかし、マシンガンの先が、一部取り外された。ウルフの表情が緊張し始めた。そのまま外したマシンガンの先を口にくわえ、ウルフは開かれた足の間に座った。
 「やっぱり・・・・こうして見ると、人間と変わらない。ここだけ触れないなんて嘘のようだ」
 ジェリーはおそるおそる目を開いた。ウルフはジェリーの顔をちらっと見ると、太股を触り始めた。
 「ああ・・・ん・・・・うっ・・・・うっっっ・・・・んー・・・・あ・・・・」
 ジェリーの身体の中には、熱い欲望が既に息づいていた。敏感な場所が、じらさないで早く触って欲しいと潤み始めていた。
 「いや・・・・や・・・・いやなの・・・・・んん・・・・うっ!」
 下半身の口は物を言いたげに震え始めた。そしてそれは涎のようにしたたる液体で塞がれた。
 「うっ!」
 ジェリーの目に、自分の胸と膝の向こう側で、口にくわえた物を外して手に取るウルフの姿が見えた。
 外された、マシンガンの部品は、ジェリーの体内に入ると思いきや、まず一番敏感な突起に当てられた。そして、マシンガンのスイッチが入った!
 ブイィィィィー・・・・・ン・・・・・。
 マシンガンは、ローターを操作するコントローラーなのだった。
 「ああああぁぁぁぁー!」
 ジェリーは声をあげるのをこらえられなかった。身体が待っていた刺激がスタートしたのだ。ジェリーには言いたいことが山ほどあった。しかし、それは身体の本音によってかき消された。生かされていて嬉しい、そして、刺激されて嬉しいのであった。
 「そろそろ話そうか」
 ウルフがローターを左右にゆっくり動かしながら、話し始めた。
 「い・・・・や・・・・・あ、あ、あ、・・・うっ!」ジェリーは抵抗の言葉も言えなかった。
 「ボクは、生まれる前のことも、前世も、何故かかなり記憶している」
 「うううぅぅぅぅ・・・・・」
 「ボクの前世は、まだ昔話の時代。燃料は木こりが切ってくる薪くらいしか無かった頃」
 ウルフは話しを変えた。ローターの動きも変えた。
 「ああ・・・・、反応しているんだね。こんなに濡れて・・・・綺麗だ。もっと熱く熱くなっていいんだよ・・・・・うっとりするよ」
 ローターの動きは円を描くように変わった。それは時々、左右に回る方向が変えられた。
 「子どもだったボクはお爺さんと一緒に、ひどい吹雪の中を仕事に出た。雪で進めなくなり、暗くなってきたので木こり小屋に一夜の宿を取るしか無かった」
 ウルフは、ローターをジェリーの身体から一旦離した。
 ジェリーの身体が身もだえを始めた。刺激を続けて欲しい欲求が、全ての内蔵を通じてジェリーのプライドを屈辱と共に突き上げてきた。
 「夜中、冷たい風で目を覚ましたボクは見た。銀色の髪に白い着物の女が、ボクのお爺さんから命を抜き取っていた。今で言う、エクトプラズムだ。ボクはそのまま恐怖で固まった」
 ジェリーは、苦痛で再び歯ぎしりをした。歯の奥からうめき声を漏らさずにはいられなかった。
 「女はボクに気が付いた。そこで言ってきたんだよ。『お前は年若く可愛い。今はまだ生かしておいてやろう。しかし、今日見たことはどんなことがあっても人に言ってはいけないよ』とね。ボクは言わなかった。でも、こうして現代に生まれ変わってきてみると、伝説になってた。ボクだけじゃなかったんだね・・・・・」
 下半身の口を覆っていた、最後の唇がそっと左右に開かれた。そして、金色のローターが音を立てながら奥へ入ってきた。
 「んあああぁぁぁ!!」ジェリーの体内がめちゃくちゃになったような気がした。身体は悦び、プライドは茨のトゲで締め付けられていた。
 「一体、何人」
 ローターは途中まで入った。ウルフは震えたままのそれから一度手を離した。
 「殺したか!」
 再びローターは進み、一気にジェリーの体内に飲み込まれた。最後、押し込まれたときに、ジェリーの肌にビニールの感触があった。直接体液に触れないように、手をビニール状の物で覆ったのかもしれない。
 バリッ・・・・・・。ジェリーの想像は当たった。ジェリーの膝の向こうで、今度は大きな風呂敷のようなビニールか、ラップのような物が動き始めた。
 「悪魔が聖水に触ると火傷するように・・・・・ボクらもまだ君のここには直に触れない。でも、することは同じだから」
 ビニールは、下着のようにジェリーの下半身を覆った。ウルフは右手でビニール越しにジェリーを触りながら、身体ごとジェリーにのしかかってきた。左の肘で体重を支えながらその手をジェリーの頭の下に差し込んだ。
 すぐに右手は動かされ始めた。中はローター、肌は温かい右手が覆って・・・・・。
 「うっ、うっ、うっ、うっ・・・・・」
 「快感で、思い出せない?」
 ジェリーは思い出し始めた。まだ自分の魂が、ハーフブリードになるには未熟すぎて、悪霊とか、妖怪と呼ばれるレベルしか無かった頃。兄と修行したのは日本だった。
 「うっ、うっ・・・・うー・・・・・っっ!」
 「胸も顔も赤く染まって、心臓もドキドキして、いいよ・・・・もっと感じて・・・・」
 修行に飽きると、よく山に旅に出て遊んだ。人の命を抜き取りおもちゃにして、いじくり回すのが楽しかった。天国にも地獄にも行けない魂は、行き場所を探してもがく。天使に拾われれば天国へ戻れるが、誰にも見つからなければ地縛霊になる。あるいは盗賊に取り憑いたり、地蔵に憑いたり・・・・・。要するにジェリーにとっては、遊びっぱなしのおもちゃだった。
 ウルフの右手は自在に動きを変えた。手の平全体で覆って上下に動かした次は、入り口から内臓を刺激するように、骨盤に邪魔されない場所からゆっくり押し上げたり・・・・。時々中指で、大きく充血した突起も押す。
 ジェリーのしていることは、兄を始め仲間には感づかれていた。人間を殺し続けると、自分たちの存在がばれそうになる、とよく兄に怒られた。
 突起を押す速さが、徐々に速くなってきた。身体の中は熱く煮えたぎってローターを締め付けた。それでもたくましくローターは振動を続けた。もはや、ジェリーの快感を妨げる物は何も無くなった。
 「いいよ・・・・その、後戻りできない顔。口も閉められない・・・・・息づかいが荒くなって・・・・もっと、もっと恥ずかしいことしていいんだよ」
 絶頂直前のジェリーの口を、上の口を、ウルフは舌なめずりをしながら見つめた。
 「悪魔退治専用のローターなんて、よく作ってもらえたよな・・・・。どう? そろそろ本音言わない? 観念して、気持ちいいって言ったら?」
 ジェリーの下半身の鼓動が高まり、耐えられなくなった。破裂するように、クライマックスは来た。
 「は、ああああぁぁぁぁ・・・・・・あ!・・・・あ!・・・あ!・・・あ!・・・あ!・・・っ!・・・・・・」
 弾むジェリーの身体を、更に弾ませ続けるように、ウルフはいつまでも執拗に手を動かし続けた。
 ジェリーが我に返ったのは、かなりの時間が経ってからであった。
 暖炉の前で、ウルフに抱かれてうとうとしていたのだった。体は自由になっていた。目を、開けたくなかった。物を考えたくなかった。ウルフが、ジェリーの顔から髪を払いながら言った。
 「人間誕生、おめでとう」
 人間にされてしまった・・・・・。
 ジェリーは、悔しさが言葉にならなかった。しかし、ウルフの腕の中は誰よりも温かかった。悪魔界で自分の働きを賞賛した人や、任務のために誘惑した人、誰からも味わったことがない温もりだった。
 「何故・・・・何故こんな罰を・・・・・」
 ジェリーは目の前のウルフのシャツを握りしめ、声を殺して泣いた。涙がジェリーの手とウルフのシャツを濡らした。ウルフは黙って、子どもをあやすように揺らし続けた。
 「サタン様・・・・・ルシフェル様・・・・何故、何故私をお見捨てになったのですか!・・・・・」
 悪魔に祈りながら何故、コンスタンティンにしがみついて泣いているのだろう・・・・ジェリーは自分のしている矛盾に気が付いた。しかし、気づいてもどうにも出来ないほど、ジェリーは疲れ果てていたのだ。
 「えーん・・・・えー・・・・っく、・・・・うぇーん、えーん・・・・」
 「泣きたいだけ泣けばいい。人間の誕生には当たり前のことだから」
 「違うもん、違うもん、私、1000年近く生きてきたんだから」
 「・・・・・言いたいことは山ほどあるが、眠ってからにしよう」
 「眠らないもん、疲れないもん、私、人間の精気を吸収するんだから・・・・・」
 ウルフは涙だらけのジェリーを抱き上げて、毛皮の絨毯から立ち上がった。二人はそのまま、側のベッドに入って深い眠りに落ちた。

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