
「で、どうしろと」
「だよね~」
双葉の部屋。土曜日、朝10時。
ここにいるのはオレと双葉だけ。
たとえば、
30年に一度実る果物を食べたとかさ、神社の階段を二人で転げ落ちたとかさ。
はたまた親が黒魔術オタクだったとか、友達がマッドサイエンティストだとか。
そういったたぐいのもの、オレ、現時点で全然思いつかないんだけど。
「あたしも。心当たりなんてまったくないし」
「でも……これは現実だよな」
「そうよね」
ベッドに腰掛け相槌を打つのは幼馴染みの双葉。
ただし、その姿はオレ、声もオレ。
で、一方のオレはといえば、
ちょいと下に目線を動かせば、胸んとこはぽっこりふくらんでて、
半袖から出てる自分の腕はやたら細いうえに、
双葉が5歳の頃、有刺鉄線にひっかけて4針縫ったあとが、
その二の腕にしっかり残ってて。
……つまり双葉とオレ、中身が入れ替わっちゃってるというトンでも事態。
意味わかんねぇし。
ざけんなよ~~!! 責任者出て来~~い!!
今朝、土曜としては珍しく9時ごろ起きたわけだ、オレは。
ていうのも、街のはずれの水族館に双葉と二人で行く予定があったから。
家が隣同士で、家族ぐるみの長い付き合いの双葉とは、
特に大きなイベントを要することなく、半年前から自然に恋人っぽい関係になってて、
高校二年にして、ぶっちゃキスまでは終わってる、そんな状態。
ただ、面と向かって話し合ったことはないが、
オレ的には、その先は、卒業まで律儀に待とうかと思ってたりしてる。
そんなオレの気持ち、アイツには伝わってると思う。
というか、ガキがガキ作っちゃまずいっしょ? 普通に考えて。
ま、それはさておき。
で、目が覚めてしょっぱな、なんか違和感あったんだ、微妙ながらも。
たとえばパジャマの柄が違ってたりとか、あとで思えばいろいろと。
ゲームやり過ぎで寝不足気味な顔でデートしたら、
あいつ怒るんだよな、なんて思いながらトイレに行ったオレ。
で、手元を見ることもなく普段どおりパジャマのズボンを降ろして……
およ? いつものやつが指にひっかからない?
だいたい、朝は無駄に自己主張してるヤツなんで、ちょっとおかしいと思い、
ズボンをひざまで下げてみた。
いやびっくり。影も形も無いんだこれが。見た目。
冬になるとそりゃ時として恐ろしくちっぽけになることはあるけど、
今はまだ秋の終わりで、それにここまで縮こまるなんてありえないし。
と思って股間に手を伸ばしたら、スルッっと向こう側まで手のひら通過しちゃうし。
『スルー検定1級合格』的な素敵さで。
縮こまったヤツどころか、その友達のツインボールさえ所在不明って……
それではと、足を広げ、腰をまげて、必死で覗き込む。
が、灯りの加減で視認不可。
今度は指伸ばしてセンター位置を皮膚沿いに奥へ……
なんか……やたら柔らかいものに遭遇。
頼りなく指にまとわりつく、変な……
しばらく続いた後、なんか指先がそれを二つに分けるように沈み込んで、
どっかに……もぐりこんで……いるような……と思ったら、
「ヌチャ……」
変な音がした。で、指先には生あったかい粘液的な感触の…
と、無意識にビクッと体が震えた。な、なんだよこの感覚?!
さらに腰を折れんばかりに曲げ、オレは自らの股間に顔を寄せた。
いつもより薄めな感じの陰毛の奥に、なじみの物件が見当たらないかわりに、
ヒダヒダのなにかが続く奥で、オレの指は体の中に第一関節まで埋没していた。
これって……オンナの「おま×こ」じゃねぇか?
息が苦しくなったんで一度体を起こした。
すると胸元でも異変が起きてるのにも気づく。
ふくらんでないか? これ……
ボタンを外そうとして……なんか異様にやりにくい気が。これって、逆?
左右に広げたら、控えめながら、ぽわんとした丸みを帯びた……
まぎれもない『おっぱい』がそこにあった。
絶句。てか、なんでもっと早く気づかないんだ、オレ。
しかしそこで、もっと重要な問題がオレの体をつきぬけた。
それは本来ここに来た理由。そう、しょんべん。
でもどうしたって、立ちションのできる状態じゃない。
だって無いんだ。あれが。
仕方なく座り込み、ちょっと力を入れると同時に、
聞いたことのない音が耳に飛び込んできた。
すごい違和感。この音は……さりげに恥ずかしいかも。
あと、終了した後が、ペーパーでふき取る範囲がさりげに広くて手こずった。
いや、その、すきま全体にどうしたって広がっちゃうわけだし。構造的に。
それに、ちょっと力入れたら触れたとこがやたら痛いし。
パジャマのズボンをあげようとして、その柄も下着も、
あまつさえオレ自身の身長すら、昨日までと全然違ってることに気づく。
部屋に戻り、箪笥の裏に鏡がついてたのを思い出して、
そこに自分の姿を映してみた。
そこにいたのは紛れも無く双葉だった。
ボタンを外したままだった上着を広げてみた。
おっぱいがあった。
これ、双葉のおっぱいだったんだ。
今まで見たことないから、さっきの時点で気づくはずもなかったけど。
その瞬間、頭ん中で、「確定!」という看板が、
空から落ちてきてドーンと突き立った。
オレは双葉に、同時に女に、なってた。
床にすわりこんだオレはもう真っ白な灰になってた。
燃えカスなんてまるでない……
真っ白な灰に……
何分そうしていたのだろうか。
まさしく上空3万メートルから舞い降りてきたかのような、
まばゆいばかりに光り輝く天啓がオレの体を貫き、
0.3秒後、オレはサスペンデッド状態から一気に復帰する。
「双葉と話すんだ!」
オレの姿が双葉になってるなら、双葉にも同じ異変が起きてるのかもしれない!
そう思い携帯を手に取った瞬間、それは光り、
同時に聞きなれた双葉専用着メロを奏で始めた。
通話ボタンをオレが押した瞬間、声がした。
「清彦だよね?」
と…………やけに聞き覚えのある低い男の声がおネェな感じでしゃべってる。
ビンゴ! ……と嬉しがってる場合じゃなかった。
「双葉か?」
「うん、そう」
口調は全然かわってない。
幸か不幸か、両家の親はそろって露天風呂つき温泉に昨晩から行ってて、
戻るのは明日の夕方の予定。
「とりあえず、双葉の家にはその体に合う服がないか。
おまえんとこのオヤジさんのじゃ、無駄にでかいオレの体、多分入らないし……
とりあえずこっちはジャージかなんかで誤魔化せるから、
オレの服をそっちに持って行って、っていうのが正解か?」
「だね。あたし待ってる。玄関の鍵は開けとくから」
玄関のドアを開けたら、そこにはオレがいた。
オレの愛用のパジャマ着て、変に落ち着かない表情のオレが。
わかっちゃいたけど、流石にびっくりして固まっちまった。
双葉はフリーズ中のオレが抱えてた着替えをひったくり、
「着替えてくる、部屋で待ってて」と言いつつバスルームに消えていった。
部屋に入り外の景色を眺めてると、ドアの音がした。
「お待たせ」
持ってたペットボトル二本のうち一本をオレに寄越し、
双葉はベッドに腰掛けて中身を飲み始めた。
オレも同じようにした。
「はぁ」
半分ぐらい一気飲みして、二人揃ってためいき。
「で、どうしろと」
「だよね~」
「着替えるの…… 予想外にしんどかった」
双葉がぽつりと言った。
「え? 別に着ればいいだけだろ? ふつーに」
「ちがうの。ズボンをはこうとしたら、
なんかトランクスの前がふくらんでるから、ちょっと覗いたの。
そしたらすご~く存在感のあるのがそこにあって、うわっ! って感じ?」
「なるほどね。見慣れないとしんどいかもな。あれは」
「でしょ?」
「ちっちゃい子供のヤツは何度か見たことあって、ま、可愛くて、問題ないんだけど、
なんていうか、清彦があんな危険なブツを所有してるとは、
わかっちゃいたけど、見ると聞くとは大違いと言うか」
「でもその、『なんかふくらんでる』っていうのは、状態としては標準状態。
必要に応じて、というか必要も無いのに、
無駄にもっとでかくなってカキーンってなるんですけど?」
「うわっ、言わないで。そのことは考えないようにしてるんだから。
というか、あんなの邪魔じゃないの? 男子的に」
「そんなこと言ったって、あれには着脱機能はないからね、元から。
慣れちゃうとなんでもないし」
「まぁね。あとさ…… 当然、清彦もあたしの、その…」
「え~っと、一応見た。ごめん。確認する都合上やっぱり」
「だよね…… ん~っ。それってやっぱり恥ずかしいもんだね。
…というか、見てても『見なかった』ぐらいのこと言ってもいいんじゃない?」
「いや、こんな事態で嘘つくのも意味ないかなって思って」
「ま、まぁね」
「本当は、いい感じになった時に…… そのはずだったんだけどね」
オレの言葉に双葉はうつむいた。
「でもね」
「なに?」
「あたしは、心の準備はできてたんだ、いちお」
「なんの…」
聞きかけて気づいた。当然それしかない。
だとしたら、だ、
スケジュールなんか考えず、こいつと『ヤ』っちゃっておいたほうが、
よかったんだろうか、この場合は。いまさらだけど。
「ねぇ」
オレの空想は双葉の言葉で中断する。
「ん?」
「万が一、あたしたちが元通りにならなかったら……」
「あぁ、まじでヤバイな、その場合は」
どうすんだろ。
学校とか、家族とか。あと、オレたちの関係とか。
最後の問題に思い至って、オレは顔を上げる。
双葉が不安な顔でオレを見つめていた。
同じこと…考えてた。
「大丈夫……だよね?」
不思議なことに、双葉の問いかけに関して言えば、
オレとしちゃ全然問題なかった。
「どっちが彼氏でもどっちが彼女でも、
おまえとオレのコンビって、結構、最強って気がするんだ。
ま、慣れるまでがめちゃくちゃ大変だろうけどね」
オレの言葉に、双葉の緊張が解けていくのがわかる。
「でもさ、『カレシとカレシ』とか『彼女と彼女』だったら、
ちょっとハードル高かったよな?
それはもう未知の世界とでも言うべきか、
百合とかBLとか、いやそのなんていうか」
「清彦~~っ!!」
言葉の途中で双葉が勢いよく抱きついてきた。
なんか、盛大に泣いてるんだけど、
むさくるしい大男にはちょっと似合わないし、
まずいことに、こいつ、今、自分がパワーアップしてることに気づいてない。
オレの『ひよわな』肋骨が悲鳴をあげ、さっきから息すら出来ない。
双葉の背中をタップする。
気づいた双葉が何事かと力を緩めた。
「気を…つけてくれ。お前は今…男なんだ。力…あるんだから」
「あ、ごめん。考えてなかった」
死ぬかと思った、まったく馬鹿力出しやがって。
あらためてこっちから抱きしめたら、双葉は目をつぶった。
自分の姿をした男とのキスには、正直一瞬ためらったが、
目をつぶり唇を重ねた。
当然のことながら、双葉の唇の感触はいつもより固めだった。
慣れるんかな~
抵抗の少なそうなパンツルックを双葉に選んでもらった。
ま、ブラなんぞ到底無理なんでTシャツで。
下のほうは、ゆうべ双葉が寝るときつけてたのが、
偶然にも飾りのない無地のものだったから、
色がピンクなことぐらいは我慢することにして、着替えなかった。
途中で、たんすの中にあったひらひらデザインのショーツを見せられて、
「試しにつけてみる?」と聞かれたが、もちろん丁重にお断りした。
で、着たものが二人ともそれなりにフィットしてきた所で、
まずは、二人でコンビニに行ってサンドイッチとスイーツを調達する。
どんな難問を抱えていても腹は空くわけで、
カウンターで金を払えばよくて、しゃべる必要のないとこをチョイスしたわけだ。
家に戻ってからの二人は黙々とサンドイッチを消費していた。
やはり、オレのほうは体にあわせて小食になってて驚いたんだけど。
紅茶とスイーツの時間になったとき、
「あっ!」と双葉が声を上げた。
「どうした?」
「もしさ、このまま二人が元に戻らなかったら、
んで、 あたしと清彦がさ、いい感じのままだったらさ」
なんかその続きは、聞きたくない感じがしてきた。
「あたしが、清彦の処女を散らすことになる……って、そゆこと?」
「…………」
オレは何も言えなくなっていた。あまりにも悲惨すぎて。
「さっき見たあれが大きくなるんだよね、ドーンって」
「あ、あの、双葉」
こいつ、結構突っ走る所があるから危険だ。
さっきも『心の準備はできてたし』なんてこと言ってたし。
オレは必死で双葉の暴走を止める手立てを考えていた。
「清彦? こっちを見て?」
呼ばれて顔を上げた。
「これ、なんだか、わ・か・る?」
すげぇいやらしい感じの微笑と言い回しと共に、
双葉の手の中で小さな四角い箱が揺れていた。
それは…え~っと…コンドームとかいう物件では?
「ちょっ、おま」
聞けば、お母さんが用意してくれたんだ、って……
その日のために、って言って。
余計なことを。
「これをつければ、えっと、私たち………エッチしてもいいんだよね?」
「い、い、い、い、い、い」
「冗談よ」
ふ、ふざけんな~~!!
「あ、可愛い! 乙女っぽ~い。
清彦、食べちゃいたいくらいすごくキュート、天使みたいに」
いい加減にしろ! 怒るぞ!
「怒った顔もいいね~ なんかこう、オスの血が燃えたぎるというか。
あぁ、これが男の子の気分なんだね。納得」
そんなセリフにオレが抗議をしようとしたそのとき、双葉の携帯が鳴った。
机の上からそれを双葉は取り上げたが、とまどいの表情を見せる。
画面がオレのほうに向けられた。『ママ』って出てた。
問題はどっちが出るか…だ。
次の瞬間、通話ボタンを押してから、
双葉は無言でオレのほうに携帯を突き出した。
それしかないか。やるしか。オレは覚悟を決めた。
「は、はい」
「双葉?」
「うん」
心臓が激しく打ってる。双葉っぽく双葉っぽく。悟られないように。
「なんか元気無いみたいだけど、どうかした?」」
「そ、そんなことないよ。すごく普通だし」
「ん? あれ?」
「な、なんですか……じゃなくて、どうしたの?」
双葉がハッとする。うわっ、今のやばかったかも。
「ははぁ~ やっぱりね~」
なにがやっぱりなんだ?
「あなた、清彦君よね?」
なぜ? なぜわかる?
「ちょっと双葉にかわって? あなたの目の前にいる背のでっかい双葉に」
オレは諦めて、双葉に携帯を渡す。
「双葉にかわってくれってさ」
大きく目を見開く双葉。
すごい緊張を見せながら双葉は携帯を受け取った。
「うん。そう、あたし。うん。
そう。朝起きたらこうなってた」
「え~っ!? だって、そんなことあるわけないでしょ?
ほんとに? 冗談じゃなくて?
でも………」
「……わかった。大丈夫。彼も。驚いてはいるけど。
じゃ、明日」
双葉は通話終了のボタンを押した。
「んで?」
いったいどうなってるのか今すぐ聞くっきゃない。
「これ、多分、遺伝だって」
「遺伝?」
聞けば双葉の口から驚きの歴史が飛び出てきた。
オレの親と双葉の親と、二組とも入れ替わりを体験したカップル。
そしてそれは、その前の世代から繰り返されていて、
発生時期はそろって17歳前後。
もう、家系の問題ってことでファイナルアンサー?
親達は新婚でこの町に引っ越して来て、
同時期だったこともあり隣同士やたらウマがあって、
しょっちゅう食事や飲みを一緒にしてるうち、
つい子供の頃のいたずらなんかの話をしてて、
性別のズレから、お互いにすぐに気づいたわけだ。同類だと。
そのあと同じ頃妊娠して、三日違いでオレたちが生まれたとき、
4人は確信に近いものを持つに至った。
かなりの確率で同じことが起きるのだろうと………
そして、時を経てそれは現実となった。
「ひとつ、気になるんだけどさ」
「な~に?」
「あの、子供の頃のいたずら話でばれたってことはさ」
「……」
「え~っ、と、彼らは元には戻んなかったっていう、そういうこと?」
「うん。入れ替わりは一回だけだったって、ママそう言ってた」
「………」
「………」
じゃ、オレと双葉はこのまま? ずっと一生?
「しんどいね」
「あぁ」
オレ達は窓の外に広がる青空を、しばらく言葉も無く見上げていた。
「あと、みんなが戻ってくるの、予定通り明日だって」
「それって、薄情過ぎないか? 親として」
「だって、予定通りだし。あとマニュアルがあるんだって」
「なにそれ?」
「だから、使わない可能性もあったけど、一応作ってあるんだって、前もって。
子供たち二人が入れ替わったときのために4人でこさえたのが」
双葉んちの書架から引っ張り出してみたら、
やたら分厚いルーズリーフ、似たようなのが二冊。表紙が青いのと赤いのと。
表紙には『清彦用』『双葉用』ってそれぞれに書いてあって。
ぱらぱらとめくる。
『第一章 入れ替わり発生時期の予測』
『第二章 初期の注意事項』
・
・
・
『終章 妊娠・出産・育児』
いやいや、本気全開モードの14章からなる完璧マニュアルだった。
「これ読めば大丈夫だからって」
いや、そういう問題じゃないと思うんだが。
「早速読む?」
「いや、いい。今日はもう十分疲れた。明日にしよう」
「だよね。今の心理状況じゃどうせ読んでも頭に入らないし」
まともに料理を作れないオレ達は、冷凍食品をみつくろって、
チンして食欲を満たす。
味が濃かったのか、やたらアイスクリームが食いたくなって、
オレは勝手知ったる双葉家の冷蔵庫から、
特大のファミリーパックアイスを持ち出して、
二人分、器にたっぷり入れた。
「うわ、太りそう。今まで結構気をつけてたのに。
清彦も、それ多すぎ! 仮にもあたしの体なんだから大事に」
双葉はそこで言葉を失う。
「馬鹿だね、あたしったら。もう、戻れないんだよね、その体に」
そうつぶやいた彼女は、スプーンを持ったまま涙を浮かべ、うつむく。
手を伸ばし双葉の頭をなでる。
いや、位置が高すぎてかなり背伸びしたんだけど。
「この体、大事にするよ。心配しなくていい。
オレのせいでデブになったら申し訳ないし」
「……ありがと」
双葉が自分の部屋で、オレは彼女の家の客間で寝ることになった。
オレのボディを持った双葉が試しに自分のベッドに寝てみると、
頭がつかえちゃいそうなあんばいだった。
「おやすみ」
「おやすみ」
客間に向かおうとしたオレの背中で双葉の声がした。
「えっと」
「今日はありがと。あと、清彦と一緒で、ほんとによかったって思ってる」
「それはオレもおんなじ。誰かほかのヤツと入れ替わってたら、
いろんな意味ですごくつらい思いしたろうし、
双葉とオレの間で起きたって事は、不幸中の幸いってやつだった」
「うん」
「大好きだよ、清彦」
「あぁ、オレもだ」
オレの心がざわめいていた。恐らく彼女も一緒だったろ。
危機を迎え、オレたちの思いが再確認できた、
そんな瞬間。
「き、きよひこ」
そんなキョドった声がしたとき、とっさにオレは彼女に背中を向けた。
「今日はもう寝よう。明日から大変だし。おやすみ」
ものすごい葛藤を押し隠したまま、あえて冷静な振りをして、
オレは寝室へと向かった。
「きよひこ……」
小さなつぶやきが背中で聞こえた……
寝られるわけがなかった。
大好きな彼女がすぐ隣の部屋にいて、オレのハグを必要としていて。
寂しそうなあの言葉を聞いたときだって、オレの心は千々に乱れた。
でも、オレがしっかりしなくてどうする、という思いの中、
とりあえず軽挙妄動を避けることを第一に考えた、そんな結果があれだった。
こういうのはやはり男として……いや、合ってネェ。
ことごとく面倒な事態だ。
どうにもこうにもならないんで、シャワーを浴びようと思った。
服を脱ぐとおっぱいにご対面。
こわごわ揉んで見るけど、自分で触っても快感があるわけじゃないと知った。
頭からシャワーを浴び、ガシガシ髪をあらったりして、
すっきりしたところでバスタオルを腰に巻いてリビングに出た。
髪を洗ったときつまらんもんが目に入るのを避けるため目はつぶってたんだけど、
胸の辺りでブルブルしてるのがわかるってのは、不思議な体験だった。
浴室から出て、パシパシっと両頬を叩いて気合を入れる。
タオルを腰に巻いてリビングに向かった。喉が渇いてた。
リビング。双葉がテーブルに座ってた。
オレのパジャマを着たオレがそこに居て。
いや全然普通の光景だけど、オレ的にはすげぇシュールな感じ。
「き、きよひこ」
なんか双葉があわてている。
「わりぃ、起こしちゃったか?」
「ち、ちがう。そうじゃなくて」
「? なに?」
双葉がオレのほうを指差す。ちょうど胸のあたり。
つられてそこを見る。
風呂場で出会ったぽよんぽよんとしたやつがそこに……
「おぉ」
双葉に背中を向け、胸と腰をカバーするように巻きなおした。
「気をつけてよね。女の子らしく隠すとこはちゃんと隠して」
うしろから双葉の声。
「習慣ってのは恐いな」
「ま、すぐには無理かもだけどね」
椅子に座る。いやいや、タオルがめくれないようにするのが一苦労。
「どうしたの? こんな夜中にシャワーなんて」
「いや、眠れなくて」
「おんなじか。あたしも、なんかね」
「んじゃビールでも飲むか?」
「飲んだことあるの?」
「だってこっちは両親揃って呑み助だぜ?
最近少し晩酌に付き合ったりしてるけど、
体質としちゃ、なんかお酒は強いほうみたいだし」
「あたしもおんなじかな。飲んだことあるけど、普通においしかった」
「じゃ、二人でナイトキャップいきますか」
「そうしよっか」
チーズとハムを冷蔵庫から出して、ささやかな飲み会が始まった。
プシュッ! プルタブがいい音をたてる。
「かんぱ~い」
「かんぱ~い ………ってのはちょっと合ってないけどね」
「そりゃそうだけど、ここで無駄に暗くなってもしょうがないしねぇ~」
「だな」
何度かグラスを満たして飲み干して。
オレ達は十分いい気分になっていた。
入れ替わりなんかじゃオレ達はめげないぞ~!
そうだ~ その通りだ~
幼馴染みをなめんじゃね~~
おぉ~!
一抹の不安を抱えてたせいもあるのだろう。
オレ達のテンションは一気に上がっていた。
突然、双葉が真顔になった。こっちをじっと見てる。
は?
視線の先は……
見れば、バスタオルがはがれかけて、胸が、おっぱいが姿を見せてた。
あわてて引き上げようとしたら、双葉の手がそれを押しとどめた。
「な、なんだよ」
「ここ、触っても……いい?」
「えっ?」
「だって、ちゃんと、さよならしたいし」
え、そういうもんなのか?
「い、いいけど。もともと双葉のもんだし」
「ありがと」
手を伸ばした双葉は『オレの』ふたつのおっぱいを両手で包むように触れてきた。
その瞬間、体がびくっって震えた。
「痛い?」
「いや、そうじゃないけど」
双葉の手のひらがオレの乳房の上でゆっくりとふにふにと、
おっぱいの感触を確かめるように動いてる。
そうしているうちになんかの違和感を感じ始め、
急に気づいた。乳首が、固くなり始めてること。
双葉の手のひらにあたるぐらいに大きく固くなってる。
自分で触ったときには別になんでもなかったのに、
こいつにされるとなんか感じが違う。
「乳首が、固くなってる……」
双葉に気づかれてた。
「も、もう、いいだろ、気が済んだんだったら」
なんか事態の異常性にオレは動転しまくって、必死になってた。
「あ、ごめん。夢中になっちゃってた」
わかってくれりゃいいんだけど。
もう一度胸を隠すようにバスタオルを引き上げて締める。
「お願いついでにもうひとつ。
寝る前に…… キスして?」
「あぁ、それぐらいならお安い御用」
急に肩をつかまれ持ち上げられるように立たされる。
少し背の高い双葉がオレをひきつけ、
覆いかぶさるようにして唇を重ねてきた。
なんか違ってた。
それまで双葉と交わしてたキスとぜんぜん別物で、
なんというか、体がとろけそうな感じ?
足とか手とか、なんか全部の力がなくなっちゃいそうで、
オレを抱きしめるその手にいやおうなしに体を預ける。
少しの間、オレ達はそのままの状態でキスしてた。
で、気づいちゃったんだ。
オレのおなかんとこに、固いものがあるってことに。
そう。いまや双葉の体についてるあれが、
ピクンピクンって、こう、ぶつかってるわけだ。
ど、ど、ど、どうすりゃいんだ~~?!
そのとき、すっと、体を締め付けてたタオルの感覚が消失した。
ぱさっ! 音がしてタオルが床に落ちたのがわかった。
え~っ!? 裸? 完全にまっぱ?
……おまえ、わざとやった? 今の?
と思ったら、双葉に力ずくで向こう向きにされた。
で、両手がオレの胸にこう、ぴたっと。吸い付くように密着して。
こんどは背中にえらい固いもんがあたってるし。
なんか、突然の衝撃が来て、思わずオレはのけぞった。
見れば胸の上の手が、指先で乳首を軽くつまんでた。
「や、やめっ」
おれは双葉に懇願した。
しかし再び二つの乳房の上で乳首が転がされ、
あまつさえ首筋に後ろから唇が落とされる。
ピクピクと体全体をふるわせながら、
オレは知らず知らず喘ぎ声を上げていた。
あまりにも強烈なその刺激に、思考回路が分断されて、
抗議の言葉をまともに口に出来ないほど。
どれぐらいその責め苦は続いたのだろう。
ようやく双葉の手が乳首から離れた。
ちゃんと息をするのもままならなかったオレは、幾度か深呼吸をした。
しかし、気づけば、先ほどオレを弄んだ手が、
視野の端でゆっくりと下のほうに向かってるではないか!!
既におへその上空を通過した手は、まっすぐに目的地へと向かっている。
身をよじって逃れようとするも、まったく体は動かない。
それなりに生えてる陰毛のうえに手のひらが着地した。
そして太ももの内側、その部分に指が入り込んできたのが感触でわかる。
「ふぁっ」
触れた部分からもたらされた感覚と共に、
そんな風な声がオレの口から思わず漏れる。
柔らかい、正体の無いぐにゃぐにゃのパーツをかすめるように、
指は飽きることなく往復してる。
オレはただ双葉のごつい手を両手で握り締めるしかなかった。
やめてくれ、と願いながら。
そのうち、「ヌチャッ」って音が下のほうから聞こえた。
うっ、もしかして…… 濡れてるのか? さっきからの双葉のいたずらのせいで……
そして、ぬかるみの周辺にあった指がゆっくりと上のほうへ…
強烈な、電撃のようなものがオレの体を貫いた。
な、な、な、
二度、三度、それは繰り返され、
オレは体を支えることさえ出来ず、かろうじて双葉の腕にしがみついてた。
例の……クリ○リスとかいう……場所……なのか?
何度も何度も刺激され続けるうちに、もう全く自分の体のコントロールもままならず、
つかんでいる腕の力も失い、オレは崩れ落ちようとしていた。
そのとき、突然ふあっと体が浮いた。
気づけば、オレは裸のままお姫様抱っこされていた。
そしてそのままヤツは自分の寝室へと向かい始める。
ベッドにそっと降ろされ、布団がかけられた。
こいつ、絶対にその気だ。
いや、おかしいだろ。昨日までオレは男だったし。
で、双葉に処女を奪われるのか? 今ここで? 本気なのか? 双葉?
「な、なぁ、双葉?」
オレの問いかけも聞こえないかのように、双葉はポーチを探ってる。
そう、そこにあるのはコンドーム。
枕元にそれを置いて、双葉はパジャマを脱ぎだした。
いや別に見慣れた体なんだけど、オレはとっさに目を背けた。
布団をはぐって双葉が入って来る。
素肌が触れる。
なんか… すごく… あったかい。
抱きしめられてるうちに、先ほどまでの恐怖が嘘のように消えてゆく。
オレは無意識に双葉の背中に手を回し、体をより一層密着させていた。
唇が重なる。二つの唇をとけあわせるかのように執拗に吸い合う。
舌が絡む。境目さえわからなくなるほど、口内を蹂躙しあう。
ひとしきり欲望におぼれた時間が過ぎたあと、やつの体が離れた。
なにかを破る音。そう、多分あれだ。
再びもぐりこんで来たと思ったら、オレの両足の間にヤツの腰が割り込んできた。
太ももの内側になにかがあたってる。すげぇ固そうなやつが。
でも、不思議に気持ちは落ち着いていた。
どんなに見た目がかわっても、ここにいるのは間違いなくオレと双葉。
ずっと一緒にいたいと思い続けた相手。
今日の今日で、女としての覚悟なんて出来てやしないけど、
少なくとも今、双葉のこの行動を拒絶する理由なんて、
オレの中にはひとつも見あたら無かった……
「双葉?」
オレの呼びかけに、
薄明かりの中、今にも凶暴な剣をぶちこもうとしていたヤツが動きを止めた。
少しは理性が残っているようだ。
「好きなようにしてくれてかまわない。遠慮はいらないから」
「……いいの?」
思わず笑ってしまう。まったく。
ここまで好き放題やっておいて、どの口がそのセリフを言うんだ?
双葉の唇をつまんでアヒル口にする。
「痛っ!」
「配役が変わったけど、
これがオレ達の望んでいた通過点であることにかわりはない。
だから、ま、いいんじゃないか……って、そう思ってる」
「清彦……あんたって……ほんとに」
「ほら、来いよ。泣く場面じゃねぇし」
オレは両足でヤツの腰を抱え、お尻をゆすってその部分をこすりつけてみた。
うわぁ、われながら、すげぇ淫乱モード。これってやりすぎ?!
敏感な先端部分にぬかるみのあったかさを感じたせいか、
ヤツは即座に、欲望に満ち満ちたけだものへと変身した。
オレの両肩をおさえ、一気に押し込んでくる。
どぅあ~~~っ!!
前にひとから聞いたのと話が違う。
『多少』とか『かなり』なんてもんじゃなくて、『滅茶苦茶』痛いじゃねぇか!
さっきの取り消し。やめ! やめ! やめてくれ~~っ!
頭の中が半分白くなったとこで、双葉の呟きが耳元で聞こえた。
「入った」
え、あ、つまり、そういうこと?
てか、処女……喪失したわけ? オレ?!
オレがそんなことを考えた瞬間、ズキンともう一度激しい痛みに襲われた。
ぎゅっと収縮したとき、なんか中に入ってるものの体積がすごくわかって、
と、同時にヤツがうめいた。
「うっ」
オレの中で、なんかが、ぴくっぴくって3回ぐらい……
断続して押し寄せる痛みの中でもそれははっきりとわかった。
「な、なんだこれ」
やつは戸惑っている。
そりゃわからんだろ、初めての双葉に、いったいそれがなんなのかなんて。
脱力して、オレの体にもたれかかるヤツにオレは声を掛けた。
「気持ち、よかったか?」
「う、うん。とっても。言葉に出来ないくらい気持ちよかった」
「そりゃうれしいな」
あそこまで痛みを我慢した上で、
「別に」とか言われたらボコ殴りの刑だよな、んとに。
って……オレ完璧に思考回路が『乙女』化しちゃってるような気が。
「今のは……」
「射精だ。コンドームしててよかったよ。やっぱお母さんに感謝だな」
「そ、そうか。あれが…… な、あの、清彦、痛くないか?」
「めっちゃ痛いけど、もうピークは過ぎたから大丈夫」
「ごめん。ひどいことしたと思ってる。ほんとにごめん」
なんか気落ちしてる。目一杯。
欲望に操られ、オレの制止も聞かず、無理やりやっちまったこと、
今になって後悔してんだろ、多分。
わかる。男ってのは出すもん出すと突然賢者になるんでね。
ヤツは土下座を始めた。裸のままで。
まぁまぁと顔をあげさせたら、
元気を保ったままの息子がおなかに張り付いてるのが見えて、やけに笑えた。
双葉を暴走させた真実の責任者は君だろうに、全く反省の色がないな。
まったく困ったもんだ。
これ以上の暴走をされても困るので、オレはパジャマを着た。
ヤツも同じように。
見てるのが可哀想なくらい落ち込んでて。
そこに携帯の着信音がした。双葉のだ。
ゆっくりと手に取った双葉は、通話ボタンを押し、意を決したように話し始める。
「ママ、聞いて…… あたし、とんでもないことを清彦君に……」
そのあとは泣き出してしまって言葉になってない。
オレは彼女から携帯を奪い取った。
「あ、あの、清彦です。双葉、混乱してるんで代わりました」
「まぁ…… だいたい想像はついてるけどね」
「清彦君、大丈夫? 今、痛くない?」
ほぇ?!
「あなたたち、マニュアル読んでなかったんでしょ」
「えっ、明日からちゃんと読もうかと」
「言っておけばよかったのよね。そう思って電話したんだけど、
時既に遅しって言うか。はぁ~」
「そこにマニュアルある?」
「いえ、リビングのほうなので、はい今、そっちに向かってます」
たどりついたリビングで、置きっぱなしのマニュアルを開く。
指示通り『第ニ章 初期の注意事項』を見た。双葉と一緒に。
なんと、そんな……
「そういうことなの。入れ替わった日は精神的に不安定で、
特に男になっちゃったほうがもう欲望の塊みたいになっちゃうの。
多分入れ替わってから24時間以内が一番ひどい状態」
うわ、どんぴしゃ。
男性ホルモンが脳内キャラクターに一斉に働きかけるせいらしい。
ちなみに逆側の女性ホルモンは、
エロ度を上げる作用を元から持たないみたいで無関係。
「それで、双葉、清彦君にひどいことしなかった?」
「いや、それほど、『ひどい』ってとこまでいってないんですが」
「したのね…… ほんとにごめんね。
あと、ちょっと聞きにくいんだけど、その… ヒニンのほうは?」
ヒニン? あ、あぁ、避妊ね。
「それは、あの、お母さんが前もって彼女に渡していたのをそのときに……」
さすがにあからさまな話なんでちょっと言いにくい。
「よかった~ 使ったのね! あれ。渡しておいて正解だった~」
みんな~っ! 聞いて~っ!
大丈夫。まだ孫の話は心配いらないみたい。
あのコたちちゃんと避妊したって。
遠くのほうでそう言ってる声が携帯からダダ漏れ。
目の前の双葉にもその大声は聞こえたのだろう、
顔を赤くしていた。
ついさっきの、生涯初めての情事が、
双方の両親に既にばればれってのは、恐ろしく恥ずかしい事態だ。
羞恥系の拷問に近いもんがある。
「あ、ごめんね。あなたたちのこと、みんな心配してたから。
明日の朝一番で帰ろうか? なんだったら」
「いえ、大丈夫です。僕の方でなんとかしますから」
「いいねぇ頼りになる旦那さん……じゃなくて嫁さんがいてくれるから」
はぁ。そういうことか。オレ嫁さんなのね、位置的に。というか現実的に。
「あ、ごめんね。あんまり追い詰めちゃだめだよね、こんなときに」
「いや、もういいです。耐性は十分ついちゃってますから」
「そう? じゃ、ちょっと早め、明日の午後には帰るから」
「あとね」
「?」
「あたしのときも大変だったの、けだものみたいな感じで」
ぶほっ
「帰ったら色々と教えてあげるから。先輩としていろいろとね」
「は、はい。よろしくお願いします」
翌日の夕方。戻って来た4人とともに、オレ達は夕食を囲んでいた。
テーブルには赤飯と鯛が並んでた。
「これって?」
「もちろんお祝いに決まってるでしょ?」
オレの母親がのたまわった。
なんの、と聞く直前で正解にたどりついた。
双葉は既に真っ赤な顔をしてる。
酒が進むにつれ、話が遥か昔へと飛び始める。
「そういえば大変だったのよね、あたしたちの最初の日も」
「そ、そのことはもう」
オフクロの言葉にオヤジが力いっぱいきょどってる。
つまり、お約束のようにけだものモードだったわけか、その日。
「避妊も何もあったもんじゃなかったから、
そのあと二人とも真っ青になったのよね~~
翌月、いつも通りに生理が始まるまで、もうビクビクもん」
双葉の両親、そしてオレの両親。
それぞれが楽しそうに昔の事を話している。
この二組の入れ替わりはそれぞれの仲を裂くこともなく、
逆に強い結束力を生み出しただけだったようだ。
かたわらの双葉を見る。
同じことを考えてたのか、オレだけにわかるようにうなずいてる。
「いやいや、熱いね~ ママ、困っちゃうわ~ どうしましょ」
双葉のお母さんにしっかり見られていたようだ。
「一応言っておこう。
高校卒業までは、双葉も清彦君も、しっかり避妊するように。
性別のアイデンティティーの確保が済んでからのほうが、
子育ての負担が減るから」
「は、はい」
双葉のオヤジさんの言葉にオレと双葉は小さく答えた。
その後も色々と紆余曲折はあったけど、
二人でなんとか乗り切ってるうちに、気づけばそれなりの歳月が過ぎていた。
一年前、結婚式で純白のウェディングドレスを着たとき、
私は生まれたときから女であったかのように、
心から幸せな気分を味わっていた。
ライスシャワーを浴びながら、嬉しくて涙が出て止まらなかった。
かわればかわるものだ。
そして今、マニュアルの改訂版を書き始めるべき時が来ていた。
元気よく内側から私のおなかを蹴ってる、そう、この子に渡すために……
fin