す き ま
某作家様にこのお話をささげます
約 束の時間にはまだ5分あった。
朋美は今、駅前広場に立っている。
忙しそうにたくさんの人が行き交う中で、一人でぽつんと人を待っていた。
原色のフレアスカートと濃い目のサングラスでは、
あまりにも意味ありげな女に見えてしまうのではないかと、気になっていたが、
知り合いに出会う危険を考えると、サングラスを外すのは無理な相談だった。
結局のところ、それは意味の無い迷いだった。
だいたい最初から、この待ち合わせ自体「わけあり」なのだから、
気にするほうがどうかしている。そういうことだ。
この一年、朋美はどんな男ともつきあっていなかった。
といっても、固い意思を持って「男断ち」をしていたわけではない。
なんとなくよさげな男をつかんでは泣きを見るパターンの多さに、
朋美なりに少しだけ自重していた結果がそうなったにすぎなかった。
でも最近は、ふとしたことで妄想に入り込むことが多くなっていた。
帰りの電車の中でいちゃついてるカップルを見たときとか。
ネットでエロティックな小説を読んだあととか。
そんな日に朋美の頭の中で繰り広げられるのは、決まって男とベッドに入ってるシーン。
相手は哲郎であったり、他の男であったり、いろいろだった。
濃厚な愛撫を受け、何もはばからずに淫らな声を上げ続ける自分。
貫かれたときに得られる、息が詰まるほどの快感に身を委ねて‥‥
しかし妄想だけで、朋美の体に空いた隙間が満たされるはずもない。
時には、ベッドの中で自らを慰めることもあった。
「たまってる?」
朋美は思わず自分に向かってそうつぶやく。
その言葉は、男達がよく使っていたもの。
しかし今の自分の状態は、それとたいして変わらないのかも。そう感じられた。
必要なのは、からだの隙間を満たしてくれる相手。
好きになって傷つくこともないような、初めからドライな関係。
朋美はそんな相手をネットで探すことにした。
ふと視線を戻すと、勤め人風の男がまっすぐこちらに向かって
歩いて来るのが見えた。
あの人かな? そう思い、少し緊張しながら近づくのを待つ。
しかし、男は立ち止まることなくすぐ横を通り過ぎて行った。
違ったようだ。
哲 郎と付き合い始めたとき、二人のデートの様子とか普段の会話を、
仲の良い友達に、少しのろけかなと思いながら話したことがあった。
しかし話が進むにつれ友達はだんだんと無口になった。
朋美はそれに気づいて、話をやめた。
友達の表情が何を意味するかなんとなく理解できた。
「やっぱり?」
「うん。まぁ」
朋美の顔色を伺うようにしたあと、話し始める。
「はっきり言っちゃうと、かなりやばいと思う。
あんた、泣きをみるかもしれない。絶対、とは言わないけど、多分‥」
半年後、数多くのいさかいを経て哲郎と別れるときになって、
その時の友人の言葉を朋美は思い出していた。
コンドームを忘れ、かまうことなく、避妊もせずに朋美を貫いた男。
妊娠の恐怖におびえ、朋美が泣き叫んでやめてくれるように懇願したにも拘わらず、
そのときの哲郎は朋美の中へと射精してしまった。
「なんで泣くんだよ。責任は取るよ?」
朋美は決してそんな言葉が欲しかったわけではなかった。
しかし、いくら自らの切実な思いを伝えようとしても、
哲郎は全くそれを理解しようとはしなかった。
逆に、そんな朋美に対しうとましさを表情にうかべた。
哲郎の態度は、その日を境に別人のように冷たく変わっていった。
数ヶ月が経ち、あんなに熱く自分を満たしていた哲郎への思いが、
胸の中にひとかけらも残っていないことに気付いたとき、
朋美は自分から別れを告げようと決めた。
電話で呼び出し、喫茶店で話をする。
言いたいことを言って、答えを待つことも無く席を立つ。
哲郎に背中を見せ、朋美は足早に出口へと向かった。
溢れ出した涙をぬぐうことはしなかった。
自分の弱さを、男に気付かれたく無かった。
追いかけてくる足音も、謝りの言葉も、
なにもないまま朋美はドアを抜け外に出た。
見上げた空は涙でぼやけて、その青さだけが記憶の中に残った‥‥
「あの?」
追憶から現実に呼び戻された朋美は、声のした方向を見た。
男が一人そこに立っていた。
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