Part.3 放課後
 
 
 
授業が始まっても、俺にはすることが無かった。

一回だけ、真面目な高校生ってやつをやってみたくて、
しっかり丸一日、授業に集中してみたことがあった。

翌日、俺は熱を出し学校を休んだ。
お袋は「知恵熱だね、こりゃ」とひとことで言い捨てた。
向いてないらしい。

隣の遥を見る。
こうしてみると、お世辞抜きでかなりの美形だと分る。
あるいは『美少女』と呼ぶべきかもしれない。

二人で街を歩けば、必ずといっていいほど、
スカウトだとか、いろんなやつが寄ってくる。
まるで街灯に引き寄せられる蛾のように。

去年の秋、文化祭の美少女コンテストでも、
遥は、惜しくも僅差の2位だった。

彼女が校庭でニコリと微笑めば
至近距離の男どもは即死に至るだろう。
窓の近くにいた野郎どもは、意識を失いながら、
転げ落ちていくに違いない。それぐらいのレベルだ。

ただし彼女は笑わない。決して。
それゆえの2位。多分そういうことだろう。


帰り道、ふと隣を見ると、一緒に歩いていたはずの遥がいない。
来た道をふりかえると、彼女はドーナツ屋の前にいた。
ドーナツが食べたくなったらしい。
そばに行く。

「ごめん、きょう俺ちょっと用があって、
 早く帰りたいんだ。だから、な? またこんど来よう?」
動かない遥。
「頼む。な? 俺の事情も‥」
ドーナツのショーケースを見つめたまま、ピクリともしない。

ほんとに用事があったのだが、試してみたくなって、
何も言わずに、放っておいてみた。

1分経過。

2分、3分、そして4分‥
5分経っても、遥はそのままの姿勢で立っていた。

「わかった。俺の負けだ。行くぞ」
俺の言葉に、遥は大きくうなずいたかと思うと、
さっさと店に入っていく。


遥は、紅茶とドーナツを前にして満足そうだった。
いや表情は全く変わっちゃいない。
でも、俺には分った。
ほんの小さなしぐさのなかに、遥が喜んでいるのが。

ただ、俺に対する感謝の念がまるっきし見えないのが、
残念といえば残念だった。
それでも別にいいんだが。

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