『モカマタリをストレートで』 Part. 2
「どうなさったんですか?」 心配そうに俺を見ている顔。加奈だ。 どうやらコーヒーカップを抱えたまま、 少しの間トリップしていたようだ。 「あっ、ちょっとね。気にしないほうがいいよ。 俺、起きぬけはいつもこんな感じだから」 あわてて誤魔化す。 「へぇ〜 そうなんだ〜 朝弱いんですか〜」 笑顔が俺に向けられる。 30分前。朝8時。 素敵なコーヒーの香りで、俺は目を覚ました。 台所に行くと、加奈は白黒のメイド服で朝の挨拶をして来た。 「おはようござます」 「おはよう‥」 「どうかしましたか?」 「あっ、いや、あの、それって、ゆうべと違うけど‥」 「あぁ、この服ですか? やっぱりメイドですから、こういうのもいいかなって。 お好きですか? 弘志さん?」 「あ、あぁ、まあ一応」 「よかった。もうすぐトーストが焼けますから、 座っててください。 そうだ、目玉焼きはしっかり固いのがいいですか? それとも半熟?」 「俺、固いの苦手」 「わかりました」 目玉焼きとトーストが並び、コーヒーが注がれた。 その香りをかいでいるうちに、 いつのまにか俺は、記憶の中の久美子と再会していた。 モカマタリの香りの中で。 「今日はさ、予定あるの?」 全てを食べ終える頃、ふと思いついたことがあった。 「いえ、別に」 「研究所とかは?」 「私に異常が発生しない限り、行く必要はありません」 「じゃ今日は遊園地に行こう」 「え?」 「だから、パーッっと二人で遊ぼう?」 「でも私はメイドロボですから‥‥」 「メイドって、日本語だと女中とか召使とかだよな?」 「ええ、そうですけど」 「だったら、ご主人様の命令には従うはずだろ?」 「はい、いちおうそのようにプログラムされてますけど。 あ、当然、強盗とか殺人とかはフィルタリングチェックで、 実行不可能になりますけど」 「だったら俺の命令で遊園地に行くのはOKでしょう」 「変な命令ですね。でも、たしかに‥OKっぽいですね」 「だろ? じゃ決まり。かたづけが終わったら行こう」 「はい!」 外に出るのがこわかった。なさけないことに。 たとえアンドロイドであっても、誰かが一緒にいて欲しかった。 「あの‥‥」 「?」 「もう少し動きやすい服に着替えようかとも思ったんですが、 もし、弘志さんが、この服のままのほうがいいんでしたら‥‥」 あやうくうなずきかける俺がいた。 やっとのことで自制する。 「いや、普通のかっこで‥ いい」 「わかりました、そうします」 Part. 3 |