カキ氷  part.3 next


目が覚めた。
なんか思いっきり暑い。冷房が効いてない。
タオルケットかぶってるし。
部屋の中、すごく明るい。朝じゃない、当然。
枕もとの時計を見ると、12時をさしている。
昼だ。もう。
クーラーのリモコンを取ろうとして、体を起こした。

「ガーン」
頭の中で巨大な釣鐘が鳴ったようにひびいた。
クラクラして、そのまま横倒し。
まだ鳴り響いている……

ぼんやりと目に映ったもの。
タオルケットは足にからまってて。
胸と、その先端と、おなかと、その下の……

えっ!!
なにも着てないの? ウソ!
まるっきりハダカじゃない!!

きのう…… きのうは……
集中しようとすると、頭が割れるように痛む……

えっと…… 雄介と海に行って…… 家で……
そうだそうだ、ビール飲んで、バーボンも飲んで。

やたらと悲しくて悲しくて。
そしたら雄介の胸が暖かくて……
ここまでしか覚えてない。
この頭の痛さは、二日酔い、ってこと?

で、なんで裸なわけ?
もしかして………あいつと……きのう?
でも、頭以外には痛いとか、そんな感じしないし。

そろそろと起き上がって、
頭の痛みと気分の悪さに耐えながらシャワー室へ向かう。

熱いシャワーを浴びて、少し気分が良くなった。
別に…… かわったとこないみたいだけど………

ダイニングで髪を拭きながら牛乳を飲んだ。
二日酔いの朝に牛乳って、昔ならおかしな組み合わせだろうな。
でも、私的には、水道から牛乳が出てきても困らない感じ?
なわけで……

そんなことを考えてる場合じゃない!
ゆうべ何があったか、思い出すんだ…… はやく……
そこまで考えたとき、電話が鳴った。

「ユリ?」
「うん」
雄介だ。

えっと…… どっから…… なんて…… 聞けばいいんだろう?
そう思ってたら、雄介から話し始めた。

「大丈夫か?」
「うん……… なんとか」
「おまえ、滅茶苦茶酔っぱらってたから、きのう」
「そう…… なんだ」
「覚えてないの?」
「ぜんぜん」
「やっぱり……」

「雄介…… あのさ、きのうさ……」
「ああ、ちゃんと説明してやるよ、目覚めたら裸だったわけとか」
クスクス笑ってる。
私はそれどころじゃなかった。
だって、まだ男なんて知らない無垢な体(!)だったんだから。
……だった?

「泣くわ喚くわで、すっごい大変だったんだから、きのうは。
 馬鹿野郎の連発でさ」

「で、とーとつに
 『暑いからシャワー浴びてくるね』
 って、目の前で服脱ぎだすんだよ、おまえ。
 俺、止めたよ。それは、さすがに」

「『あれ? 顔赤いよ雄介? あ、恥ずかしいんだ、ハハハ。
  ちょっと前まで一緒にお風呂に入った仲じゃない!!』
 それは10年以上も前の話だろ!って言ったんだけど、
 気づいたら、とっくにすっ裸になってて。
 俺に向かって直立敬礼しながら、
 『ただいまより、シャワー、行ってきます!!』って……」

「歩き出したら突然『うっ…… 気持ち悪い……』って言い出して、
 こりゃヤバイと思って、おまえをトイレまで運んで……
 まあ見たくない光景だったね。
 女の子が裸でトイレにしがみついてる光景なんざ、ちょっとね。
 百年の恋も冷める、っていうか。
 ちゃんとドア閉めたよ。これでも優しいとこあっから」

「20分ぐらいほっておいたら、静かになってて。
 ドア開けたら、そのままいびきかいて爆睡中だった。
 かついで、なんとかベッドまで運んでいった。
 と、こういうわけ」

それ聞いてて、私は顔から火が吹くんじゃないかと思った。
とんでもない醜態を異性の目の前にさらしてしまったんだ。
考えようによっては、初体験をするよりもっと恥ずかしいこと……
だよね? ……これは。

でも………

「ああ、心配してるんだろ。そうだよな。一応女の子だしな」

一応は余計だろ! 心の中でしっかり突っ込んでた私。

「でも、考えてみろよ。
 色気もなんも、ありゃしない。特にああなっちゃえばな。
 ま、遠洋漁業の乗組員の気持ちがわかったっていうか。
 カツオとかマグロに欲情する奴もいないだろ?
 そんなとこだ」

私の純潔はとりあえず無事だったようだ。
だが、このセクシーボディをつかまえて、
カツオだマグロだとかと、いっしょくたなんて。
それじゃあんまり……
いや、今はそんなことを議論している場合じゃない。

「あ、このことは誰にも言わねえよ。心配すんな。
 っていうか、言えねえな、まじで。ハハハ」

言葉がない。

「……今……頭痛いだろ?」
「うん、がんがんしてる」
「今日一日寝てりゃ明日には治るから。俺もそうだったし」
「わかった……ありがと……雄介……いろいろ」
「……あぁ……じゃあな」

受話器を置いて、部屋に戻り、ベッドに横になった。

いや、別に貞操観念が固いわけじゃない。
惚れた男と結ばれたいだけで。
『適当に初体験』というのは私の趣味じゃないから。

失恋の痛みは、もうだいぶ治まった。
やけ酒が効いたんだろうか。

でも、それより、
私の悲しさを減らしてくれたのは、
雄介の胸だったような気がする。今思うと。

ん、そんなこと。なんだそれ?

……でも……あいつの胸に顔を埋めて泣いていたとき、
すごくあったかくて……落ち着いた気分になったこと……
今でも、覚えてる。

どうして?


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